彼女の旅立ち
気高き少女、メリシェン。
彼女は元辺境伯令嬢で、王太子の婚約者でした。
厳しい王太子妃教育をこなし、学園では常に好成績。
また、学生でありながら魔術師としても活躍していました。
当然社交にもしっかりと力をいれ、貴族の情報を収集し、
更に、王太子妃の業務だけでなく、王太子の分の業務も
代わりに請け負っている状態でした。
どれだけ疲れていても決して人には見せず、常に完璧で
あり続けました。
人々が彼女を完璧な令嬢と讃える一方、彼の婚約者は、可愛げがなく自身を立てることのない彼女を酷く嫌っていました。
婚約者の義務であるお茶会もエスコートもまともにせず、贈り物もしない。
挙句、自身の仕事までも彼女に丸投げするだけでなく、
王太子教育も護身術も何もかも放棄し遊びほうけていたのです。
当然国王や王妃に叱咤されます。婚約者の彼女も、
彼が機嫌を損ねぬ様、やんわりと諌めました。
しかし彼は、殊更反発し続けました。
ある日のこと、彼は運命の出会いを果たしました。
たいそう愛らしく、自身の婚約者とは違い護ってあげたくなるような女性。
彼は夢中になり、“真実の愛”等と口にし、令嬢と逢瀬を楽しみました。
彼が王族として贅沢な生活をすることが許されるのは、
王族として権威を振りかざすことが許されるのは、王族の義務を果たす場合のみ。
しかし、彼は何一つ義務を果たすことはなく、婚約者を蔑にし、時に罵倒し、彼女を孤立させていきました。
そして運命の日。煌びやかな卒業パーティー。
奇しくも国王夫妻の不在の時でした。
王太子妃であるメリシェンではなく、浮気相手の令嬢を伴い入場する王太子に、会場の人々は驚愕しました。
同時に、王太子に失望しました。
しかし、禁断の恋に酔いしれる王太子は全く気づきません。
いかに自身の婚約者が悪女であるか、いかに横に並び立つ令嬢が素晴らしいか、演説し続けます。
会場の人々が冷やかに見据えていることに気付かずに。
盛り上がることのない人々に腹を立て、彼は、そして傍らに立つ令嬢は、愚かな言葉を口にしました。
それは、メリシェンが令嬢を苛めたという、ありもしない罪です。
当然会場の誰も信じません。
メリシェンは冷静に、怯むことなく、身に覚えのない罪であること、分刻みの自身のスケジュール、そもそも令嬢とすれ違ったことさえないことを、淡々と告げました。
しかし王太子は聞き入れません。
証拠があるのか、王国の影が見ているはずではないのか。
彼女は毅然と立ち向かいます。
されど、謂れのない罪を被せられ、少女は婚約破棄されてしいました。
さらには、国外追放を言い渡されました。
彼女の両親の抵抗虚しく、国王夫婦不在のまま強行されたそれは、彼女を追放へと誘いました。
家族も、友人も、彼女の従者や使用人達も、
彼女の名誉と心を傷つけたことに皆憤り、彼女のこれまでの努力が何もかも台無しにされてしまったことに悲しみました。
彼女は、沢山の人に、愛されていました。
しかし王命は王命。大切な人たちを守るため、
誰にも告げることなく、新月の暗闇の中、静かに旅立ったのでした。
瞬く星たちのみが、運命の星に導かれ、かけがえのない人々と出会っていくことになる彼女を静かに見守っていました。