ある天使の狂っていった過程と地獄
妹との揃いのイヤリングが突如割れた。
胸騒ぎがする。あの子に何かあったのか?
慌てて館を飛び出し屋敷に転移する。
可愛い妹夫婦と姪が幸せに暮らす楽園へ。
美しい館は血塗られた地獄へ変わり果てていた。
息のある使用人を治療し安全な場所に転移する。
妹の気配も可愛い姪の気配も感じない。
アシュレイの魔力の欠片を追う。
猛毒に内臓を焼かれ、刃に心臓を貫かれた亡骸がそこにあった。
──どうして。
強く頼りになる青年だった。
時期領主と慕われ、賢くそして要心深い青年だった。
あの子の夫に相応しいいい人間だった。
幸せになるべき青年だったのに。
どうして、私は森に帰ってしまったんだ。
私がいれば守れたはずだった。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして
こんな、地獄が。
冷たく変わり果てた青年の、頭をそっと撫でる。
どうかこの子の死後が安らかでありますように。
屋敷のどこにも妹と姪の気配がしない。
二人はどこへ消えた?連れ去られた?
──否、違う。アシュレイの転移魔法の魔力痕だ。
外を飛び出し消えかけの魔力痕を追う。
沢山の足痕に矢の残骸。
何故気配がない?あの子は──
ふと近くの森から妹の魔力を感じる。
まさか…あの魔物だらけの森へ逃げ込んだのか!
祝福で人間へと変化し、刀を構え森へ飛び込んだ。
暗い森の中でほのかにともる光を見つけた。
赤子が、可愛い姪が、光につつまれすやすやと眠っていた。
そっと赤子を抱き上げる。
嗚呼、フェーミル、あの子達の忘れ形見。
お前の幸せな未来を守ってやりたかった。
お前は幸せになるはずだった。
あたたかな光の中、いつまでも幸せでいてほしかった。
なんとも美しく残酷な光だろうか。
これは、あの子達を護れなかった私への戒めの光だ。
天使は、死へ向かう際にたった一度だけ、強力な守護の祝福を使うことができる。
強く深い愛が最期の祝福となり、我が子を守ったのだ。
マリーミル、私の可愛い妹よ。
お前を、お前の大切な居場所を守ってやれない不甲斐ない姉を許さないでくれ。
私がいれば、皆を守ってやれただろうか。
愛する妹はもうどこにもいない。
最期の祝福を使った天使は、強力な祝福の代償として、
或いは祝福を行使する触媒として、肉体が消滅する。
魂だけが死後の世界へ向かうという。
遥か遠く空の上で、あの子達が穏やかに、そして幸せに暮らせますように。
まずは安全な場所へこの子を。
森の妖精達に人間の子の育て方を聞かねばなるまい。
「私の可愛い天使。すぐに帰ってくるからな。
いいこで待っているんだよ。
お土産にお前のお母さんが大好きだった花をつんでかえってやろうな。」
幻獣にフェーミルを預け、森を出る。
月を背負い天使が嗤う。全てのものを呪っていく。
──体感時間10倍、感覚は5倍。永遠に苦しむがいい。
ある者は全身が少しずつ溶けて爛れ、ある者は部屋の中で溺死した。
元凶とその仲間、暗殺者達を次々と呪殺する。
激昂し、されど狂ったように嗤いながら。
愚かな人間共よ報いを受けよ。その死をもって。
赦さない死してなお苦しむがいい。魂ごと呪ってやる。
夜は、ずっと続く。お前たちも、私も。
復讐の果てに
大切な者を失い、彼女は壊れてしまった。
ずっとずっと、明けない夜が続く。
息をするように、呪い殺す。仇なす者に容赦は無用。
私の大切な者を脅かすことは赦さない。
もし完全に狂っていれば、楽であっただろうか。
──否、あの子たちを救えなかった私が楽になっていいはずがない。
これは私の贖罪。永久に続く精神の地獄。
フェーミルのために生きてフェーミルの幸せを願う。
愚かな私に赦された唯一の、そして最上級の幸福。
ありえたはずの、未来
フェーミルが聖女として覚醒し、性質が天使側に傾いた。
動揺し、激情に取り憑かれる。
僅かに残った理性で、平静を装う。
落ち着きなさい。
つらいのも、不安なのもこの子だ。私ではない。
不安げに見つめる愛し子を腕に閉じ込めた。
亡き母を模した女神像に背を預け、そっと頭を伏せる。
神よ。あの子が一体何をした。
明るい未来だけでなく、人として生きる路まで何故奪う。
少しずつ少しずつ蝕まれていく精神と、渦巻く狂気。
あの子を護ることができるのであれば、私はどうなっても
構わないから、どうか、あの子を護りきる力を私へ。
※ギリギリの精神バランスと狂気のフェミたんについて気づいてるのはカイン様とガンミョウジとミルヴェル。
※フェーミル、エレオノーラ、メリーアップルパイの面々、
アシュレイ達の味方だった生き残りの使用人、
アシュレイの弟ユーリウスは身内判定なので大事にする。
フェーミルが同じく長命の伴侶をみつけ、幸せになったら救われる。
- 手をとって、それから
- 遠い遠い記憶の彼方。彼女は恋をしていました。
幼い頃に遊んだ魔族の少年でした。
- 魔族だから天使だからと、関わる前に線を引くのは違うと思っていました。
種族の違いなんて些細なことだと思っていました。
少年もまた、争いあうのではなく、楽しく遊ぶ方がいいじゃないかと考えておりました。
ふたりはいつも一緒にいました。
- 少女が美しい大人の女性へと成長した頃、世界では大戦が起こっておりました。
奇しくも、彼女の両親がこの世を去った時でした。
- 少女は森の継承のため森にこもりきり、少年から青年として成長した彼は、魔族に協力しなかったため、魔族たちに魔石に封印されてしまいました。
少女は、星空を見上げては少年のことを想いました。
- 悠久の時を経て、彼女の妹が人間と恋に落ちました。
しかしその幸せも、愚かな人間により壊され、絶望のさなか、妹の忘れ形見フェーミルを見つけました。
- 母の愛を思い出しながら、彼女は必死に、そして大切にフェーミルを育て上げました。
- ある日のこと。街に出たフェーミルがなかなか戻りません。
ひりつく皮膚、ざわつく胸。
寄り道をしないあの子がこんなに遅くなることはありえません。
強くなる耳鳴りに流れる汗、激しくなる鼓動。
探しに向かおうとした彼女の背後、館の前に、あの子の魔力を感知しました。
- 知っているのに知らない魔力。
普通の少女としての未来が失われたあの子が、迷い子の様にこちらを見上げていました。 - 星環の聖女。運命を切り開く夢幻の才媛。
あの子に課せられた壮絶な運命に、少女が普通の幸せを未来永劫手にすることができない事実に、深く絶望しました。
- 明けない夜に囚われ、常に精神が苛まれながらも、彼女はいつも飄々と少女達を見守り続けました。
- いつもと変わらない忙しい日常。何も変わらないはずだったその日、信じられないものを目にしました。
- 大戦で亡くなったと思いこんでいた幼なじみの魔族の青年が、生きていたのです。
- 一方、青年も驚愕しフェミーリエを見つめていました。
魔族でありながら冥王に手を貸さず裏切りの烙印を押された風変わりな青年。
人間を面白がり、強き者との闘いを楽しむ美しき青年。
- 彼には忘れられない女性が居ました。
幼き頃出会い、惹かれあった天使の少女。
あの頃と変わらぬ美しい、されど深い絶望に苛まれし愛しき女性。
目の前に立つフェミーリエでした。
- 二度と会えないと思っていたの。
私ね、あなたにずっとずっと会いたかった。
星空を見上げるとね、あなたと沢山お話したことをいつも思い出したわ。
ねえ、あなたに話したいことがたくさんあるの。
もうどこにも行かないで、お願いずっとそばにいて。
- 言えない言葉を胸に閉じ込め、二人は再開の喜びを分かち合いました。
聖女は、そんな二人を優しく幸せそうに見つめていました。
- 青年は、ゆっくりと彼女を夜明けに導きました。
あの頃の自分とは違う、私は変わってしまったから…と離れようとする愛しき少女を、おぼれて息ができない程の深い愛で、むせかえりそうな甘い愛で、しっかりとからめとりました。
- 魂が響きあい、追憶の彼方より惹かれあってきた2人は、深い愛で結ばれました。